気になる数字

世の中数字がものを言います。メディアに現れた気になる数字を取り上げ


このページにつついて

 新聞や雑誌のメディアは統計やデータなどの数字であふれています。
 それは、一般的に数字が主観を排除したハードで冷徹な事実と思われているからですが、実際は、人々は数字を自分なりのコンテキスト(文脈)で利用しようとするため、それ自体は客観的であるはずの数字でさえ、主観的な意味合いを持ってしまうこともあります。
 そういうことに注意しながら、わたしがメディアで目にした数字を取り上げていきたいと思います。
閲覧回数:14193
このブログを購読
作者のプロフィール

最近のエントリー

■79.29年   (2009年08月06日)
■32,155人   (2009年01月30日)
■28.9%   (2009年01月22日)
■1億台   (2009年01月14日)
■632台、世界2位-アイスランド   (2009年01月10日)
■140万人 - 派遣社員数   (2009年01月07日)
■66%   (2008年12月16日)
■2000億円映画市場が抱えるジレンマ   (2008年12月11日)
■東京と上海の高層ビルの数   (2008年04月16日)
■経済成長率   (2008年04月16日)

632台、世界2位-アイスランド

2009年01月10日

人口1000人当たりの自動車保有台数の世界ランキングだ。
この一見何気ない数字の裏に、アイスランドが直面する危機の背景が隠されている。

 英エコノミスト誌が1月8日付けで興味深いランキングを示した。
 ちなみに、アメリカは461台で第16位、日本は441台で21位だった。
 統計自体は2005年のものとされている。

 この、なんてことはない統計記事に対して、世界中から質の高いコメントが沢山寄せられるところなどは、さすが世界的クオリティペーパーだけはあると感心させられた。

 多くのコメントは、なんでアメリカがこんなに低いんだ、間違いじゃないのか、というものだったが、これは、ヨーロッパの人たちの、アメリカに関するステレオタイプ、すなわち、隣の家に行くにも車を使うくらいクルマ依存社会で、デブばかりになる・・・というイメージが強く反映されているのだろう。
 これに対しては、アメリカといっても都市内貧困層などは車は持てないし、最近は子沢山のヒスパニック系によって人口が増加していて、1000人当たりとなると、こういう結果になるんじゃないのか、といった冷静なコメントがなされていた。

 結局のところ、自分のことを棚に上げるのが得意なヨーロッパ人が気づいていないのかもしれないけど、君たちやオセアニアのヨーロッパもどきの人たちがが一番クルマに依存しているのだよ、とでも言っているような統計で面白い。
 そもそも人口1000人当たりの車の保有率は、国の豊かさと強い相関があるだろうから、結局は豊かな国が上位を占めるのは当たり前のことなのだろう。

 その中で特に興味深いのはアイスランドが2位を占めていることだ。
 この人口30万人の小国は、日本と同じく捕鯨国だったりして、日本人にとってなんとなく親しみがわく。
 このアイスランドが2位を占めることについて、面白いコメントがついていた。
 それによると…。
 アイスランドが2位なのはもっともだ。
 なぜかといえば、これまでは少々貧しくてもいくらでもクルマのローンが組め、みんなランド・ローバーをばんばん買っていた。
 いくらでも新車が買えるものだから、誰も中古車を買おうとせず、結局、アイスランドで中古車を売ることは、ものすごく難しい。みんな、どんどん新車を輸入するからだ。
 だから、どんどんクルマがたまっていって、見かけ上、こんな数字になるんじゃないかと。

 事の真偽はともかく、このアイスランド人と思われる人のコメントは、今、アイスランドが直面する国家の一大危機の原因を如実に表現している。

 どちらかといえば漁業国というイメージの強いアイスランドは、今回の金融恐慌以前は目覚しい繁栄を謳歌していて、2006年には国民一人当たりのGDPで世界5位になるほどだった。
 その牽引力は金融、不動産業で、GDPに占める両者の割合が26%にも達していた。
 驚くべきことに、銀行の貸出し残高は、ピーク時にはGDPの9倍に達していたという。
 ちなみに、日本の名目GDPは515兆円、貸出し残高は400兆円で、割合にして8割程度だ。
 八割と九倍の差は大きい。日本の銀行が同じ割合で貸し出しすると、4635兆円も貸出しすることになる。
 そして、その原資の多くが、ヨーロッパを中心に海外の預金者から集めまくったカネだった。そして、銀行はそのカネを、不動産業などに貸しまくり、儲けまくったということだろう。
 空前の開発ラッシュも、その潤沢な資金のおかげだ。

 ところが、アメリカ発のサブプライム問題で、海外預金者が心配になって一斉に預金を引き上げようとしたわけだ。
 もちろん、銀行がいきなりそんなキャッシュを用意できるわけがなく、中央銀行といっても、経済全体がしょせん人口30万人程度の規模しかないので、そんなGDPの9倍ものキャッシュを用意できるはずがない。
 しかも、漁業国のアイスランドは、タラ漁の制限を受けるのがいやで、EUにも加盟していないため、もちろんユーロにも加盟していない。だから、ヨーロッパ中央銀行の助けも得られない。
 結局、残された途は、鬼のIMFしかなかった…ということだ。
 タラの怨念は恐ろしいというところか。

 昨年の11月にはIMFの緊急融資を受け、経済再建の道を歩み始めたが、金利は18%と、日本のサラ金が慈善事業に見えるくらいの水準だ。
 通貨も半分近く値下がりし、いろんなものを輸入に頼っているため、物価も跳ね上がる。
 政治的に非常に穏便だった国民が何十年かぶりにデモを繰り返しているが、その中で、主婦が「いきなり生活費が倍になった。なんなのこれ!」と叫ぶのを聞くと、身につまされる。
 さらに、今年のGDPは1割近くのマイナスになるだろうと予測されている。
 国民の多くが、住宅ローンや自動車ローンを返済することが絶望的になり、ローンで買ったランド・ローバー(Land Rover)をもじって、ゲームオーバー(Game Over)と自嘲気味に言っているのは、「笑えない」を通り越して痛ましくさえある。

 歴史上何度も繰り返されたバブルは、いつものことながら、はじけて初めて、人はバブルだったんだと納得する。
 「借金はほどほどに」という当たり前の教訓を守ることが、なぜ、これほどまでに難しいのだろうか、と思わずにはいられない。

 アイスランド国民はこれから、経済の正常化のために、おそらく想像を絶するほどの痛みを経験することになるだろう。
 それは、この誰もが知っている処世訓を忘れてしまったことの代償としてはあまりにも大きいものだ。
 でも、これは、日本にとって決して他人事ではないのかもしれない。
 後世代のことを顧みず際限なく公債を積み上げていく日本は、このアイスランドの教訓から大事なことを学ぶべきなのかもしれない。

On the road

The Economist
Jan 8th 2009