時の記憶

時代の記憶として残したいニュースの勝手な論評です。


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 メインストリームのニュースから少し外れたところにこそ、えてして時代の真実が隠されています…などと、たいそうなことを言うつもりはありません。
 でも、ちょっとしたニュースに何を感じ、何を考えたかを残すことで、自分の人生の軌跡みたいなものを残せないかな~と感じています。
 なので、私小説的な時事論評として読んでいただければと思います。
 もちろん、感想は下の「作者にメール」でお寄せください。
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グーグルのモトローラ買収が問うもの

2011年08月18日

 125億ドル(9600億円)という目の飛び出るような値段で、なんとなく落ち目なモトローラの携帯端末部門を買収すると発表したGoogle。
 株価に63%のプレミアムを上乗せした高値買いの買収に関して、様々な憶測がなされているが、英エコノミスト誌がこの数字を示して、「いやいや、なかなか美味しい取引だ」と述べているのが興味深い。その根拠とは?

「分かりやすい」算定根拠

 ちょっっと簡単な計算をしてみよう。
 2010年12月、Novell社が、保有する882の特許をオークションにかけ、4億5千万ドルで売却した。
 電卓を使って、1特許当たりの単価を弾くと、$510,204.08とでる。

 そして、今回のGoogleの発表。
 モトローラの携帯部門が保有する特許の数は24500件。買収総額は125億ドルだから、同様に電卓で単価を計算してみると、あれれ、こっちも1特許当たり$510,204.05とでる。 驚くべきことに、小数点以下まで同じではないか。

 なんのことはない、Googleは、特許に対する対価を支払うだけで、携帯端末の製造部門まで手に入れるわけで、英エコノミストが美味しい取引だと言っているのもそういうことだろう。
 もっとも、見方を変えれば、Googleにとって製造部門そのものはあくまで「オマケ」に過ぎず、モトローラの携帯端末「製造」部門には、その保有する特許以外に企業価値を認めていないということなのかもしれない。

IP War

 素人は問題の意味すらわからないパズルを解いて初めて、入社試験の「入り口」に立てるGoogleのことだから、決して「頭の悪い」取引はしないだろうが、あまりにもシンプルな根拠で、かつ「転んでもタダでは起きない」値付けに唸る人は多いだろう。

 それと同時に、驚かされるのは、いかに落ち目とはいえ、モトローラの携帯端末部門の企業価値を特許のみで「平然と」弾くGoogleの割り切り方だ。
それ程までに企業戦略にとって特許の持つ意味が大きなものとなっているということだろう。

 IP Warという言葉がよく用いられる。
 これは、枯渇してしまったIPv4(インターネットのアドレス)を巡る戦いなどでは、決してなく、知的財産権(Intellectual Property)を巡る企業間の熾烈な戦いのことだ。
特許訴訟の帰趨やライセンスを巡る駆け引きが、企業の長期的戦略を大きく決定づけるようになっているということだ。

 今回のGoogleによる買収も、同社が推進するAndroidに対するApple社などによる特許訴訟に反撃するための「火力」として、モトローラ携帯端末部門の特許を買うためのものだという「動機」を疑う者はない。
 だからこそ、これほどまでに「わかりやすい」積算根拠となっているのだろうし、さらに穿ってみれば、この買収単価には、AndroidというOSに専念していたGoogleがハード製造部門を買収することについて、今後Googleが自社製造部門を「優遇」するのではないかという懸念を抱く者に対して、「少し頭を使えばGoogleの買収意図がわかるでしょ?」という、「頭のいい」人達らしいメッセージが隠されているのかもしれない。

標準単価

もう一つ注目すべきは、今回のGoogleの発表によって、$510,204.08という数字が、一流企業が保有する特許の財産価値を弾く指標として認識されたということだろう。
もちろん、玉石混淆はあろうが、「ならして」考えれば、IT分野での特許は、一件当たりこの程度の価値が認められるということだ。

現在のレートで、約4000万円。
これまでに3件の特許を出願して認められる社員は、「概算で」約1億2000万円の企業価値を知的財産権によって生み出したことになる。

 同じような尺度を当てはめれば、研究機関、さらには国ごとの「知的財産価値」を、かなり乱暴な数字ではあるにせよ、弾くことができるだろう。
 例えば、2010年の大学別特許公開件数(国内特許)をみると[2]、第1位が東北大学で、343件。これはIT分野以外の特許なども含まれるだろうが、とりあえずネグって例の単価をぶっかけると、1$=¥80換算で、約140億円になる。第2位は東京大学で、270件。同様の計算で約110億円だ。
 文科省なら、これを国費投入額で割って、補助金のレバレッジ係数を計算したいところだろう(笑)。

 さらに、国別でみると、日本の2010年の国際特許の出願件数は、32156件(推計値)。[3]
同様の計算をすると、$16406122396.48(1$=¥80で約1兆3000億円)になる。
 これに対して、アメリカは44855件。同様に計算すると、約1兆8300億円。
なんだ、日本は欧米の猿真似しかできないと広く信じられている割にはなかなかやるじゃないか。
 一方、一時は、「世界の新製品の半分はうちが生み出したものだ」と豪語していたイギリスは、4857件と、日本の15%にすぎない。金額ベースで約2千億円。
なんだ、それほどでもないなと感じでしまうが、これはあくまでフローの数字なので、ストックでみればまた違った絵になるのかもしれない。

元ベンチャー企業が阻む新たなベンチャー

 今回のGoogleの発表により、企業の長期戦略にとって特許がいかに重要なものかということを広く印象づけた形になったが、逆に言えば、こんな大規模な投資で特許を「重装備」し、特許訴訟による他社からの攻撃に備えなければならないというのでは、中小のベンチャーはたまったものではない。

 本来は、知的財産権を保護することでベンチャーを育成すべきところが、かえって、大企業から特許訴訟を提起されても体力がないために十分な訴訟遂行ができず企業存亡の危機に立たされるというのでは、ベンチャー起業家も萎縮してしまうのではないだろうか。
 実際、行き過ぎた特許訴訟がイノベーションを阻害していると考える識者は、特許闘争の「発祥の地」であるアメリカでさえ多い。特許制度を抜本的に変革しないと、新たなベンチャー企業の出現によって維持されてきたアメリカ経済の活力が、かえって損なわれることになると危惧されているのだ。

 例えば、1999年10月、アマゾンは、「ワンクリックで買い物ができる」という他愛もないことで取得したビジネス・モデル特許の権利を、バーンズ&ノーブル社が侵害しているという理由で訴え、同社のサービスを一時、利用停止に追い込んでいる。
 このアマゾンの呆れた所業に「開いた口が塞がらない」人は多かったが、当時の一般的な技術レベルでも「子供騙し」のようなことで、ある日突然訴えられ、サービス停止に追い込まれたり、法外な賠償請求をされるというのでは、ベンチャー起業家は、おちおち枕を高くして眠ることさえできないだろう。

 さらには、このような企業間の駆け引きにとどまらず、企業がオープンソース陣営を相手に特許訴訟を仕掛けるといったことすら行われている。
 例えば、アメリカのユタ州にあるソフトウエア企業SCOグループは、Linuxに組み込まれた機能が、同社が保有すると主張するUNIXコードの権利を侵害するとして、IBMを訴えるとともにLinuxユーザーに対してライセンス料を要求し始めた。
 しかも、驚くべきことに、同社が侵害されていると主張するUNIXコードが具体的にどの部分なのかというIBMの問いに、訴訟において明確に示すことすらできない有様だった。
 なんともやるせないことは、このSCOグループの前身はカルデラ・システムズという企業で、有名なLinuxディストリビューションの一つであるCaldera Linuxを販売するベンダーであることだ。
 いわば、Linuxに世話になったビジネスをしておきながら、それがうまくいかないとみるや、こんどはLinux陣営を相手に強請り・たかりのようなビジネスに手を染めたわけで、このような仁義なきビジネス・モデルに対し、「アメリカ資本主義には節操も何もないのか」と、かの毛沢東主席が発したであろうような呟きを多くのLinuxユーザーが漏らしたものだ。

 しかも、このSCOの訴訟の背後には、Linuxを自社のOSビジネスに対する最大の脅威とみなすマイクロソフトの存在が囁かれ続けていたが、そのマイクロソフトも2007年、Linuxがマイクロソフトの特許を侵害しているとして、SCOが行ったのと同じようにLinux陣営に対してライセンス料を要求している[5]。

今回の買収劇が残すもの

 今回のグーグルによるモトローラ携帯部門の買収が、同社のアンドロイド・ビジネスを防衛するためのものだったということは誰しも認めるところだろうが、この買収劇が、特許を武器とするビジネス闘争というトレンドに油を注ぐことになることは間違いないだろう。
 そして、そのような仁義なき戦いに備える術をもたない中小ベンチャーやオープンソース陣営が社会にあらたなイノベーションをもたらすためにはますます厳しい環境になることも間違いのないことだろう。

 ITベンチャーの世界は、技術革新を武器にビジネスを革新したベンチャー企業が大企業になった途端、今度は大企業としての力を武器に、新たなベンチャー企業によるイノベーションを叩き潰そうとする歴史の繰り返しだった。

 知的財産権を保護する目的は、本来、イノベーションによって社会が大きな利益を受けることを促進するためのものだ。
 そして、ビジネスや社会までも変革するほどのイノベーションの多くは、よちよち歩きもままならないベンチャービジネスの手によって実現されてきた。そんな、危うい企業がしっかりとビジネスを進めることができるよう、ベンチャーキャピタルや、特許制度が存在しているはずだ。

 ところが、今や、本来、そのようなベンチャー企業を守るべき制度が逆にその存続を脅かすようになっているとすれば、制度本来の趣旨をもういちど思い起こし、制度の抜本的な見直しをするべきときに来ているということだろう。

参考文献

[1] Does Google's $12.5 billion acquisition of Motorola Mobility seem pricey? http://t.co/sLZfo0x

[2] 国内大学別特許公開件数
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2011/toukei/2-13.pdf

[3] International Patent Recover in 2010 (WIPO)
http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2011/article_0004.html

[4] 日本勢脅かすグーグルのモトローラ買収(日経新聞社説・2011-08-17)

[5]Microsoft、Linuxベンダーらに特許侵害の賠償金を要求――「オープンソース・ソフトウェアはわれわれの特許を235件も侵害している!」
http://sourceforge.jp/magazine/07/05/15/1011207


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