民主党政権の命運を握る3者の正体
2009年08月24日
新チャンピオンは、防衛戦に勝って初めて真のチャンピオンとみなされる。
同じように、今週末の選挙に勝った民主党は、来年の参議院選挙に勝って、名実ともに政権与党となることができる。
しかし、その防衛戦に向けて、民主党に残された時間は少ない。
新しいアメリカ大統領は着任前から「最初の100日」に向けた戦略を練るという。
当選の確定から就任までの期間をフルに活かして、スタート・ダッシュの準備をする。
一方、そのために日本の新総理と新政権に与えられた時間はほとんどない。
来年7月には参議院選挙が予定されていて、新政権が根付くかどうかは、参議院選挙での勝利にかかっている。
しかし、それに向けて、新政権に実質的に与えられた時間は、アメリカ大統領よりも少ない。
既に政権交代が規定路線となりつつある中、おそらく民主党指導者や大臣候補者として名前が挙がっている人たちの頭の中では、来年7月に予定されている参議院選挙に向けた戦略が練り始められているはずだ。
一方、来年の参議院選挙で勝利して「逆ねじれ」というプロレス技のような状態にもっていきたい自民党は、民主党の政権担当能力の欠如を国民の目に晒すためにあらゆる作戦を投じることだろう。
万年野党に転落するかどうかの真の戦いは、来年の参議院選挙だからだ。
したがって、民主党政権の今後の命運は、年末の予算編成、来年の通常国会で、民主党政権の最初の100日の実績をアピールできるかにかかっている。
100日と聞くと長く感じるが、たかだか3か月に過ぎない。
来年の参議院選挙と聞くと少し時間があるようだが、今後のスケジュールを考えるとそんなにのんびりはできない。
9月中旬に国連総会が予定されている。
鳩山代表が新総理となったら、これが最初の外交デビューということになる。
そのためには、その前に「総理」という肩書が必要になるので、特別国会の召集と組閣もその前ということになるだろう。
新総理の帰国後、新政権として実質スタートということになろうが、実質的に稼動を始めるのは10月以降だろう。
だととすると、予算の政府原案の閣議決定まで3か月足らずしかない。
アメリカ大統領のはるかに上をいくスピード感が必要なのだ。
年明けから通常国会になり、予算委員会などで次の参議院選挙を睨んだ論戦が事実上始まる。
そのときまでには、新しい国家運営の形と、主要公約の実現の見通しを立てなければ、「野党」自民党が「ほれみろ、政権担当能力のかけらもないじゃないか。」と国民に訴えられ、勝利を収めるだろう。
「脱官僚」が目に見えた成果を上げることができない一方で、威勢だけはいいが、組織を動かす能力も、経験もない政治家が各省庁の業務運営を混乱させる事態は最悪だ。
行政の停滞が国民生活にはねかえり、「国家の混乱」が人々の目に明らかになれば、国民の不満が参議院選挙で爆発するだろう。
今回の選挙で民主党がしたように、自民党はその怒りを最大限活用し、地すべり的勝利を収めるかもしれない。
今の国民は、もうすっかり忍耐力を失ってしまっているのだ。
そうすれば、にっちもさっちもいかなくなった連立政権は沈没船と化して、参議院選挙目当てにそこから逃げ出す鼠も出てきて、連立政権は一気に瓦解するかもしれない。
まさに、100日の勝負と言える。
それでは、その勝負どころはどんなところだろうか。
まず第一に、民主党は「必ずやる」と宣言した最重要施策、すなわちA公約と呼べるような施策は、万難を排して実行しなければならない。
それは、民主党が信用できる党かどうかを端的に示すものにほかならないからだ。
どんなに言い訳をしても、これができなければ、国民の信用を失い、自民党の格好の攻撃材料となるだろう
具体的には、子ども手当の半額支給の開始、暫定税率の廃止、公立高校の実質無料化など7.1兆円かけるとされているものだ。
来年度予算編成の見直しや今年度当初や補正予算の執行見直しにより、子供手当ての半額支給のように、約束を守ったかどうかが国民の目にはっきりするものは、あらゆる犠牲を払ってもやる必要がある。
ただ、これは、意外と難しい。7.1兆円というのは、国防費を上回るカネだ。
そんなものが、これから3か月の間に「なんとかできる」のだろうか。
次の財務大臣候補と目されているミスター円こと榊原英資・慶応大教授は、「カネがないならどんどん国債を出せばいいではないか。」と開き直っている。財務省では主計畑でもなく、財政規律などはそもそも頭の中にはない人なのだろうが、為替レートばかり気にしていたようなこんな人に財政を預けて大丈夫なのだろうかと思う。
仮に国債増発で対応するような羽目になると、それはとりもなおさず財源を確保できなかったことを白状するのと同じで、多くの国民は「やっぱり口だけだったか。」と思うことだろう。
なので、「ムダをなくせば必要な財源はあるんです。」と訴えていた鳩山代表の言うことが正しかったかどうかは、国債の増発なしに財源の手当てができたかどうかで判断することになるだろう。
おそらく財務省は、既に夏休み返上でそのための対策を練っているはずだ。
ここで、「総理、どうぞお使いください。」と、鳩山総理の机の上にポンと7.1兆円を置いてあげれば、民主党政権に大きな「貸し」を作ることになるからだ。
もっとも、財務省としても国民福祉税のときのような過ちを犯すことはしないだろう。あのときは、十年に一人の逸材と言われた斉藤次官が自民党を敵に回したところが、その自民党があっさりと与党に返り咲いてしまった。
今度は政権の雲行きを十分見定めた上で行うことになるだろう。
なので、この7.1兆円錬金術は、深く潜行したオペレーションとして実施しているかもしれない。
そして、政権の行く末をじっと見定めながら、新政権を見限るのであれば、この秘策は書類棚の奥深くにしまい込んだまま巧妙なサボタージュを続け、新政権の自壊を待つことだろう。
「時の政権党を支えるのが公務員の役目です」と、財務省の事務次官が記者会見で言ったそうだが、それを額面通りに受け取っている人は、記者会見場にも、記事を読んだ国民の中にも一人もいない。
財務省の動静が今後の政権の行く末を決める可能性さえ持っているのであり、財務官僚はそのことを十分知りつくした上で、大蔵帝国の権益確保のための戦略を練っていることだろう。
一方の民主党から見れば、この急場は、結局のところ財務省の力なしに乗り切るのは難しいということを早晩悟るだろうし、既に一部の関係者からは、あまり財務省を敵に回すべきではないという声が出ているようだ。
「脱官僚政治」が聞いて呆れる。
その他のA公約の実現もなかなか難しい。
国民の三大不安である、年金、雇用、北朝鮮のいずれも、まったく決めてを欠いている。
就任前は威勢のよかった舛添大臣が最近はしゅんとしているが、その舛添大臣に向けられていた攻撃が、そのまま民主党に向けられるだろう。
「消えた年金」問題も、長妻氏が言っているようなやり方では、混乱を増幅することはあっても問題解決の目途すら立たないだろう。
それに、多くの国民が心配しているのは、もはや消えた年金ではなく、年金制度そのものが消えるのではないか、という心配だ。
それについて、民主党は消費税を4年間は上げないという「その場しのぎ」のような公約を出していて、制度そのもののの再構築の道筋は国民にはまったく見えない。
その一方で、来年発足を迎える年金機構は、組織がスタートしたばかりの間は、なにかと不手際やトラブルに見舞われることだろう。
「なにもよくならない年金制度とトラブルに明け暮れる年金機構」という構図は、年金問題がウリだった民主党が国民の失望を買うのに十分すぎるものだ。
雇用についてもしかりだ。
今は、湯水のようにばらまいた景気対策の効果で、主要先進国の各国とも数字が好転している。
「世界経済は縮小が止まった。それがいいニュースの終わりだ。」
8月20日の英エコノミストの記事はそう書いて、今後の景気は、各国の財政出動による景気対策効果は早晩消え、その後の回復の見通しがまったく立たないと述べている。
日本の状況もまさにそうだろう。
ということは、これから年末にかけて、景気対策という薬物効果が消えると、再び日本経済は禁断症状に苦しむことになるだろう。
しかも、日本経済は、需要不足を景気対策で補ってやるという薬物依存が進んだ経済なので、自律回復し、成長する意思と気力すらない体になってしまっている。
希望の星は中国市場だが、政治が足をひっぱってきたこともあって、欧米諸国に比べれば出遅れが目立つ。その中国とて、急回復を見せる数字は大規模な財政出動が支えているので、それがいつまで続くかはわからない。
要するに、年末から来年にかけて、日本経済は厳しい試練に立たされ続けるだろうということだ。
これに対して、「無駄な公共事業をやめて家計所得を増やす」という民主党のアプローチでは、これまでのような景気対策を打つことは難しい。
今度の景気対策に関しても、箱モノ整備や公共事業をさんざん「愚かな支出」として攻撃してきた手前、似たような景気対策を打つことは難しいだろう。
やるとしても、家計に直接カネがわたるような方法をとるとすれば、これも愚策と批判してきた定額給付金や、せいぜいエコポイントみたいなものになるのかもしれない。
しかし、子ども手当の対象にならない世帯では、配偶者控除や扶養控除も切られ、増税されることがはっきりしているので、直接カネを渡してもらっても、使う気にさえならないだろう。
それに、景気対策でさらにカネを使えば、A公約の実現すらあやぶまれる事態になる。
厳しい経済情勢に置かれながら、民主党が景気に対して打てる手は驚くほど少ない。
もうヘトヘトになっている国民が、そんな民主党を長い目で見守るような余裕はないだろう。
最後の北朝鮮についても、民主党は心もとない。
今、戦後で一番アメリカの力を必要とするときに、偉そうに「対等外交」を持ち出して、親分の怒りを買うのではないかと多くの人が気を揉んでいる。
ドイツのシュレーダー首相が同じようなことをアメリカに対して言ったが、統一ドイツには、日本にとっての北朝鮮のような国はない。しかも、ヨーロッパ統合の中にしっかり根を下ろしたドイツは、本気でもう前のようにアメリカを必要とはしないと思っている。
しかし、日本は違う。
冷戦時代は、東西冷戦の一環として、アメリカは共産主義に対する防波堤として日本を守る国家的利益があった。だから、言われなくても守っただろう。
しかし、北朝鮮という「ならずもの国家」に対して日本を守るのは、ストレートにアメリカの国益と言えるものではない。
本心では、「そのくらい自分でやってくれよぉ。」と言いたいところだ。
実のところ、アメリカに対等外交を持ち出すほど、状況は対等ではないのだ。
そういうこともわきまえないで、民主党が「エラソー」なことを言えば、アメリカは、チューインガムを噛みながら、「ちょっとお灸をすえる必要があるなあ。」と思うだろう。
そうやってアメリカが戦略的に日本との「ぎくしゃく」を作り出せば、国民は、日本の安全保障に深刻な不安を抱くことになるだろう。
要するに、アメリカが民主党を見限れば、民主党はかなり厳しい事態に追い込まれることを覚悟しなければならないだろう。
財務官僚、経済、アメリカ政府。
民主党が威勢のいいことを言っているマニフェストの対極にあるこの三者が、実は、民主党政権の命運を握っているのだろう。
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