民主党マニフェストから奇妙に抜け落ちている視点
2009年07月31日
オバマ大統領を生んだアメリカの民主党と、日本の民主党を重ね合わせながら民主党マニフェストを読むと、奇妙に欠落している部分があるのに気がつく。
それはとりもなおさず、日本の民主党が真に国民の利益を第一とする政党になりきれていない部分だろう。
今回の民主党マニフェストを読んで密かにほくそ笑んでいる人は多いが、NTT経営者とNTT労働組合はまちがいなくそうだろう。
2006年の「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」において、2010年の時点で組織問題について検討するとされていた。おそらくそこでは、今のような「見せかけ」の分離・分割に隠された独占体制の見直しが議論されただろうが、自民党が下野することでこの合意が反故にされる。
しかも、新たに政権を担おうという民主党の政策集では、NTTという語句自体が末尾の「項目別五十音索引」にすら現れないくらい、完膚無きまでにこの問題が葬られようとしている。
それどころから、長年の宿敵である旧郵政の通信・放送行政を独立行政委員会に移し、事前規制から事後規制への転換を図るという。これで、あれこれ「事前に」うるさいことを言われなくなって、自前の独占力をフルに発揮して、さぞかしのびのびと仕事ができることだろう。
NTTの分割に終始反対に回っていた日本の公正取引委員会と違い、アメリカで独禁法を担当する司法省は、独占的な通信企業だったATTを分割した。
そのためには、1970年代から始まる長い長い法廷闘争が必要だったが、通信行政を担当していたFCCは、このような司法省の動きに終始一貫して反対していたし、市場に参入しようとする企業が現れると、ATTと口裏を合わせるかのように足を引っ張っていた。
それは、ATTの独占を認める代わりにFCCの規制を受け入れるという、(昔の)日本のケーサツとヤクザのような共存共栄の関係にあったからだ。
クリントン大統領の数少ない実績の一つである1996年通信法改正で、このようなFCCの体質は改められつつあるが、昔をよく知る人は、FCCといえば「独占企業ATTの番犬」というイメージの方が強い。
アメリカ政府、特に民主党政権は独禁法の厳格な運用に力を入れる。
それは、競争のない市場は、価格の高止まりの原因になり、独占企業に不当な利益をもたらす一方で、消費者に高負担という不利益を強いるものだからだ。
なので、民主党政権になるということは、すなわち独禁法の運用が厳しくなるぞ、というサインでもあった。
ところが、日本の民主党が政権になると、力もやる気もない公正取引委員会の尻を叩くどころか、政策のアジェンダにすら乗せようとしない。
独占企業の横暴から国民の利益を守るという基本政策を掲げない政党のことを「民主党」と呼ぶことはできない。
官僚から実権を取り戻すことには熱心だが、それを本当に国民の利益ために使ってくれるのだろうかと心配してしまうのは、私だけではないだろう。
総務省(旧郵政)が競争市場の実現という御旗を掲げてNTTと死闘を繰り広げたが、その目的は単に自分たちの規制権限の強化だけだった。
今回もそれと同じ構図で、国民はいい「ダシ」にされるだけなのではないかという心配も、あながち根拠のないことではないかもしれない。
民主党がNTT組織の見直しを棚上げしたい理由は言うまでもない。
NTTの労組は、NTTの民営化は「給料が上がるかもしれない」と賛成だったが、分割は労組の政治力をそぐことになるので絶対反対だった。
NTTの経営者たちは、もちろんグループの分散と市場支配力の低下につながる分割には絶対に反対だ。
分割反対では、経営者と労働組合が完全に一致している。
そして、NTT労組は民主党の支持母体だし、民主党議員の中にはNTT出身者がいる。
なんとわかりやすい構図だろう。
グローバル競争に勝ち抜くためには強い経営基盤が不可欠だという理由で、NTTは実質的な分割を免れた。形としては分割されたが、持ち株会社を認められ、事実上、グループ全体が一つの会社として機能し続けることとなった。
そして、公社時代からのインフラの独占を背景に、高い接続料などあの手この手で、市場参入しようとした企業を次々に血祭りに上げてきた。
その結果はどうだっただろうか。
素人が見てもバカじゃないかと思えるような海外投資で2兆円近くも損をするし、世界から見向きもされないような携帯電話の規格で国内携帯メーカーを縛りつけて、結局、まったく国際競争力のない会社ばかりにしてしまった。
ノキアやモトローラ、サムスン、LGといった欧米韓のメーカーが市場を席巻する中で、日本メーカーは名前すら出てこない。
ADSLという技術で新たな設備投資なしに安価にブロードバンドを導入する技術が注目されたときも、NTTの「高い」技術力のおかげで日本独自の規格になっていたISDNと干渉のおそれがあるということで、その導入にブレーキがかけられた。
その実、何が行われていたかといえば、「光」しか頭になかったNTTにADSLがわかる技術者がほとんどいなくて、他の民間企業と競争できるようになるたに時間を稼いでいただけだった。
市内電話はともかく、長距離電話の値段は相変わらず高い。
ADSLは確かに安いが、それとて、ソフトバンクがNTTと闘争の末、市場参入を果たして価格破壊したからだ。携帯も同じだ。
こやうって市場参入を果たした企業も、自分の後に参入しようとする企業に対しては、これまでの敵と共同戦線を張るのは、どこの業界でも同じだ。
なので市場の競争性を維持するためには、継続的な監視が必要だし、そのためには規制が不可欠だ。それは役人の権限のための規制ではなく、消費者の経済的利益を守るための規制だ。
インターネットの分野でも市場の寡占化は進んでいると言われている。(残念ながら今年の情報通信白書は、情報通信市場の競争性には興味がないかのように、何の記述もない。)
民主党の政策集がいっているように、単に「事後規制」で済む問題ではない。
同様のことは航空業界にもいえる。
新たな企業が参入しようとしたとき、既存の大手二社のJALやANAは、狙い撃ち的な割引で参入企業つぶしばかりしていた。
あるいは高い整備費用を請求するとか、空港の駐機スポットをわざわざ遠いところに割り当てるとか、よってたかって参入企業いじめばかりしていた。
国内独占を維持して高い国内運賃を課すことで、国際競争力のない国際路線での赤字を埋め合わせることが、公然と行われてきたのだ。
似たりよったりの構造はまだまだ沢山ある。
国民視点での市場政策をとるのなら、こういった独占による利益を競争によって排除するという視点がまず最初になければならない。
そのためには、独占企業の独占力、市場支配力に制約を課して、実質的な競争条件を確保するための規制が不可欠だ。
しかし、民主党政策集では、「クマ被害」には11行もの記載があるのに、独占の排除と市場競争の確保については、「公正競争の環境整備を推進します。」と1行足らずの記載のみだ。しかも、何を言っているのかさえわからない。
競争政策こそ、経済政策において企業本位の政権なのか国民本位の政権なのかを見分ける一番のメルクマールだ。
民主党マニフェストの経済政策、市場政策を読む限り、残念ながら国民はその視界には入っていないようだ。
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