民主党マニフェストの方程式の解法
2009年06月23日
6月20日の読売オンラインによれば、民主党が次の総選挙向けのマニフェストの骨格を決めたという。
消費税は上げない、公共サービスの無料化は進める、世帯に支給する手当は厚くする、家計所得を2割増する・・・。
もちろんできればそれにこしたことはないが、これらを同時に実現する「解」など存在するのだろうか。
多くの国民が、この民主党マニフェストの方程式が、結局のところ「解けない方程式」だったと証明されることになるのではないかと心配し始めている。
数学の素人は、フェルマーの方程式を見ると、それを満たす解が「ひょっとすると一つくらいはあるんじゃないの?」と思ってしまう。
しかし、人間の知性は、360年かけて、「いや、ない。」と証明してみせた。
これとは逆に、報道された民主党のマニフェストの「骨格」を読んだほとんどの人は、「そんな解、あり得ないんじゃないの?」と思う。
民主党政治は、4年の間に、「いや、ある。」と証明してくれるのだろうか。
民主党マニフェストを作成している元官僚の岡田氏は、片方が360年かかったのだから、こちらも100年くらいはかかると言いたいかもれしない。しかし、「ある」という証明は「ない」という証明よりも格段にやさしいのだし、そもそも有権者の忍耐はそんなには続かない。
おそらく2年くらいの間には、「民主党の力で解ける問題かどうか」くらいは国民の目に明らかになるだろう。
民主党が国民に約束しようとしていることを要約すれば、
①負担増はしない(少なくとも当初4年間は)、
②これまで以上にたっぷりバラマキを行う、
③経済を成長させ、雇用を守る、
ということだろう。
このうち、②と③には、少なくともこれから数年はかなりの金がかかる一方で、その間は負担を上げないというのだから、この両者を実現するためには、新たな財源を用意できるかどうかにかかっている。
この裏付けがあって国民に約束しているのかどうかということで、民主党が「口先政党」ではない、信用できる「責任政党」かどうかということがはっきりするだろう。
なので、先の党首討論のように、自民党は、財源論に焦点を当てて矛盾を突こうとしているのだろう。
それによって、民主党が実行可能な政策プログラムも作れない「政治同好会」に過ぎないということをあぶり出そうということだ。
これに対して、6月23日付け各紙によれば、民主党は、どのように財源を捻出するかを明らかにしたという。
個別の費目を挙げて削減幅を示していて、一見、「詰めた案」のように見えるが、どうやって費用の削減をするのかよくわからない項目もあって、民主党のマニフェストが「解けない方程式」であることを、ますます印象付ける内容になってしまっている。
例えば、、「地方自治体への一括交付金化」で4.3兆円削減するという。
これまで、各省の補助金を一括交付金にするというのは、地方への金の渡し方を変えるだけなのに、それでどうして4.3兆円の削減になるのだろうか。
4.3兆円もの額を減らすということは、それでなくても財政的に疲弊している地方に渡る金を実質的に減らそうということなのだろう。
現下の景気悪化の中で青息吐息の地方経済をさらに痛めつけ、数百億円単位で金をドブに捨てても平気な東京都と、乾いたぞうきんを絞るような努力をしているその他の地方との格差をさらに拡大することになるように思えて仕方がない。
また、租税特別措置の見直しでも、4.2兆円の収入増を図るという。
租税特別措置の見直しで収入増を図るということは、各種の減税措置を止めたり、縮減するということだから、要するに増税するということだ。
租税特別措置の中には企業向けの減税、例えば研究開発投資に対する減税などもあるが、住宅ローン減税や住宅向けの固定資産税の減免のような、個人向けのものもある。
かなりの増収額なので、おそらくは企業向け減税だけではまかなえないだろうから、個人向けの減税措置も減らすということだろう。
金持ちかどうかにかかわらず一律に2万6千円支給する「子供手当」を創設する一方で、個人向けの減税措置を撤廃して負担を増すことが、果たして整合性をもった政策なのだろうか。
また、企業減税を撤廃することは、③の「経済を成長させ、雇用を守る」ということに大きく反することになるのではないだろうか。
さらに、国家公務員の人件費2割削減などで1.1兆円削減するとしている。
そもそも、官公労が支持母体である民主党にそんなことができるのかという疑問はともかくとして、人事院勧告制度の下で政治が「勝手に」給与水準を下げることができるのだろうか。
それに、民間の給与水準にも大きく影響する国家公務員の給与水準をいきなり政治的に2割も下げれば、家計所得を2割増させるという他のマニフェストと衝突してしまうだろう。
となると、定員削減ということになるが、いまでさえ主要欧米諸国と比較しても、人口千人当たりの公務員数が半分以下となっている日本で、そんな定員削減をするということは、更なる民営化を進めるか、公的サービスの水準そのものを下げるしかないだろう。
郵政の民営化ですら見直すと宣言し、「暮らし重視」を掲げていることと、どう折り合いをつけるつもりなのだろうか。
そして、極めつけが特別会計の見直しや「埋蔵金」の活用で6.5兆円の増収を図るというものだ。
これらの「お宝」は、自民党政権によってかなり掘りあてられてしまって、もうたいして残っていないだろうし、仮に残っていたとしても一度使ったらそれまでという一回こっきりのものだ。
今、民主党に必要なのは、経済が自律的に成長を遂げるまで、少なくとも数年は続く継続的な財源のはずだから、こんなものに6.5兆円も当てにしていること自体がただの数字合わせにしか見えず、この財源案のいい加減さを物語っている。
うかうかすると政権が交代させらるという緊張感を日本政治にもたらすことは、とてもよいことだろうと思う。
が、その一方で、政権を担おうという政党が、国家の大計を考えもせず、選挙民に耳触りのいいことばかりを都合よく並べてうそぶいているという無責任の図は、政権交替が現実味を帯びているこの時期だからこそ、とても残念だ。
360年もの間、フェルマーの大定理は証明されなかった。
その間、頭のいい人たちは「もやもや」した人生を送らなければならなかっただろうが、普通の人たちにとってはどうでもいいことだった。
その一方で、民主党の大定理が「解けない方程式」であることが証明されたとき、民主党政治のために費やされた日本の時間は、もう取り返しがつかないし、もっとも「痛い」思いをするのは、普通の人たちだろう。
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