時の記憶

時代の記憶として残したいニュースの勝手な論評です。


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 メインストリームのニュースから少し外れたところにこそ、えてして時代の真実が隠されています…などと、たいそうなことを言うつもりはありません。
 でも、ちょっとしたニュースに何を感じ、何を考えたかを残すことで、自分の人生の軌跡みたいなものを残せないかな~と感じています。
 なので、私小説的な時事論評として読んでいただければと思います。
 もちろん、感想は下の「作者にメール」でお寄せください。
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かんぽの宿を叩き売らなければならない本当の理由

2009年02月04日

 毎年赤字を50億円垂れ流し続ける「かんぽの宿」事業をオリックスに109億円で一括譲渡する案が、鳩山大臣の「横槍」で頓挫している。
 取得価額が2,400億円というのに、フタを開けてみれば、オリックスへの売却価格は109億円という。
 印刷ミスかと思えるような値段での叩き売りに怒りをぶちまける鳩山大臣の行動はわかりやすいが、ぶつける相手を間違った怒りは、ただの八つ当たりにしか見えない。

 全国の特定郵便局長という集票マシンで代議士にしてもらっていた義理で郵政民営化に反対したために、小泉元総理に勘当された国民新党が、かんぽの宿問題で鳩山大臣に申入れを行おうとしていたところ、先手を打ってやり玉に上げることで、油揚げをさらって得点を挙げた鳩山大臣は、意気軒昂だ。

 郵政民営化の光の部分は大事にし、影の部分は見直さなければならないというのが大臣の持論だが、本当の影の部分というのは、なぜこんな目を見張るような安値販売をしなければならないかということだろう。
 すぐ目の前にひかえている選挙への対策や大臣本人の郵政民営化への疑問も背景としてあるのだろうが、日本郵政をやり玉に上げて国民を煽るだけでは、本当の影の部分に目を向けることにはならない。

 まず思い出さなければならないのは、国も地方も、無駄なハコ物作りで、どれだけの税金が無駄にされてきたかということだ。
 国民から預かった簡易保険料だけではなく、社会保険料を使った事業、赤字で苦しいはずの林野事業まで、○○ピアだの、○○バルクなど、なんでこんなにこぞって宿泊施設だの、よく意味のわからない博物館などを作らなければならないのか、呆れるほどだった。

 何も国だけではなく、地方も第三セクターを雨後のタケノコのように設立し、箱モノづくりに血道を上げた。
 本来は公共と民間の良いところを併せ持つはずの組織が、実は、公共の経営感覚のなさと、民間の節操のなさという悪いとこ取りの組織になり、どこもここも大赤字という形で税金を無駄に垂れ流し続けた。
 宮崎のシーガイヤなどという愚かなものを作らなければ、宮崎県内の小中学校の耐震化などはとっくの昔に済んでいたかもしれないし、夕張市が破産することもなかっただろう。

 なぜ、無駄な箱モノづくりが国、地方をとわず日本中で行われたかといえば、それが「オイシイ」事業だったからだ。
 箱モノを作れば、地場の建設業者が仕事をもらえるし、政治家に口ききしてもらって納入業者として潜り込むことができれば、おいしいビジネスになる。
 民間企業とちがってお役所仕事なので、納入価格などもあまり「うるさい」ことも言われないだろう。

 なによりも大きいのは、役人などの新たな天下り先になることだ。
一つ箱モノを作るということは、それを運営するための組織を作ることだから、新たなポストを生み出すことができる。
 しかも、施設がある限りその組織はなくならないはずで、安定した「おいしい」ポストだ。
 今回、やり玉に上げられているかんぽの宿にも、もちろん旧郵政省のOBが多数天下っている。

 さらに巧妙なのは、旧郵政省のOBが社長を務める企業がかんぽの宿からレストランなどの業務を幅広く請け負っていることだ。
 レストラン運営を事業とするこの会社は、夢閑歩(ゆめかんぽ)サービスという会社で、旧郵政省キャリアOBが社長を務めるという。
 民間企業とはいえ、高速道路関係の「民間会社」と同じように、民間とは名ばかりの官業会社なのだろう。

 というのも、この会社が行っていることは、小泉改革の時代の公益法人改革で廃止された天下り団体である財団法人・簡保加入者サービス協会が行っていた事業をそのまま引き継いでいる。
 その結果、全施設の8割に当たる51施設で業務を請け負っているという。(2007年9月18日読売新聞)
 この社長も、前身となる協会が解散させられるまで協会の会長をしていたし、役員4人のうち3人が旧郵政省OBだ。さらに、2007年4月からこの記事の時点までの間に、郵政公社退職者の12人が再就職しているという。

 構造改革時代に箱モノ事業の再点検によりあちらこちらで明らかになったのは、こんな「たかりの構造」だった。
 たかられ、しゃぶり尽くされた上に、天下り役人と親方日の丸体質の職員が運営して、利益を上げられるはずもない。
 そんなこんなで、毎年50億円も赤字を垂れ流す事業になり果てたということだろう。

 今回の日本郵政による資産価格の鑑定は、「収益還元法」という方法によるものだという。
 不動産の鑑定評価には、取得原価による原価法、似たような取引での価格を参考にする取引事例比較法と、今回使われた収益還元法という方法がある。
 不動産バブルのときまでには一般的に取引事例比較法が主流だった。
 しかし、これだと不動産価格が上昇しているときには高値が出やすく、バブルを煽り、本来の収益力をはるかに超える価格で取引されるために、いったんバブルがはじけると、買った人の「傷」も深くなる。
 こういった批判もあって、国や公共団体での不動産鑑定では収益還元法が使われるようになった。

 ところが、収益を基準に不動産を鑑定すれば、当然のことながら、かんぽの宿事業のように、毎年50億円も赤字を垂れ流す事業だと価格はぐっと抑えられてしまう。
 しかも、今回の譲渡に当たっては、天下り役員も含めて職員の雇用の確保が重要な譲渡の条件だったというのだから、買い取ろうとする企業は二の足を踏むのも無理はない。

 企業側に談合でもなければ、入札手続きそのものはおそらく適正に行われたのであろうし、こういうこともあって取得原価の5%未満という落札価格となってしまったのだろう。
 なので、鑑定評価の方法を民間並みにもっと弾力的にすれば、多少は売却価格も上がったかもしれないが、天下り役員も含めて3240人もの職員の雇用の確保を優先するという条件では、おのずと限界もあるだろう。

 一方、オリックスから見れば、譲渡の条件となっている転売制限期間を過ぎてオリックスが第3者に転売するときは、もっと自由に価格を決めることができるし、引き受けた職員の雇用についても、グループ企業間でいろいろ「工夫」の余地もあるので、利潤を生み出す価格で転売することもできると見越しての落札だったのだろう。

 見かけの「わかりやすさ」だけで怒りの拳を上げることは簡単だ。
 しかし、本当に怒りを向ける先がどこなのかをきちんと見極めるクールヘッドを持つことが、責任ある政治の本質ではないだろうか。
 その意味で、鳩山大臣が振り上げた拳は、本来、与野党を問わず「かんぽの宿」問題を煽っている政治家や、大臣のお膝元で密かにこの話が潰れてくれるように画策している官僚達に対して振り下ろされるべきだろう。

 そして、ちょっと前まで、官業における癒着構造を報道しておきながら、タブロイド世論が宮内叩き一色になると、途端にそのことを忘れて、パッシングに加担する新聞の無節操ぶりも相当なものだ。
 いつもは、きちんとした分析もせずにわーっと盛り上がるだけのネット世論を「ネットいなご」と批判しているくせに、それを地でいく日本のクオリティ・ペーパーのクオリティの低さに絶望した人も多いのではないだろうか。


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